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J鉄局の珍車ギャラリー

福井鉄道 F10形 レトラム

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ギャラリー

「GT4形でも 735形でもない F10形だ。」
−福井鉄道 F10形 レトラム

経営基盤が脆弱で、かつ利用客の増加に目途が立たない昨今のローカル私鉄において、
新車を導入することは容易なことではありません。
とはいえ、
いつまでも古い電車を使い続けるのにも限度があります。
そんなわけで、現在、地方鉄道では、
大手私鉄の中古車が多く導入されています。
さてその中古車が、玉突きで、より経営状態の厳しい地方鉄道に
再度引き継がれている例として
「銚子電鉄の2000形」をかつてご紹介しました。
ですから、セコハンならぬサードハンドの鉄道車両の存在は
特に珍しいという物ではありません。
しかし、サードハンドの路面電車で
かつ元をたどれば外国製というのは、
このF10形以外にはないと思われます。

彼女の生い立ちを見てゆきましょう。
F10形 は もと西ドイツ・シュトゥットガルト市電の735号機です。
1960年にエスリンゲン工機で製造されました。
形式は「GT4」。2両連結の車両でありながら、
運転台はパンタグラフが搭載された車両にしかない
という珍しい車両です。
そう、シュトゥットガルトでは
起終点にあるループ線で方向転換を行っていましたから、
バック運転する必要はなかったのです。
扉も片側のみにしかありません。
今はなき桃花台新交通のピーチライナーと同じですね。

GT4形は1959年から営業運転を開始し、
1965年までに合計350編成が導入されました。
結構な数ですね。主力で活躍していたのだな と想像できます。
しかし、シュトゥットガルトでは1985年以降、
輸送力を増強すべく軌間を変更(1000mm→1435mm)、
大型車両が導入されることになりました。
GT4形の台車を改軌しても輸送力は増えません。
GT4形は廃車、あるいは各都市へ譲渡されることとなりました。

さて1989年に開業85周年を迎えることになった土佐電気鉄道ですが、
その記念事業として
世界の路面電車を自社線で走らせることにしました。
その一環として、
ちょうどだぶついていたこのGT4形が選ばれたというわけです。

ところが、土佐電気鉄道にはループ線などありませんので、
そのままでは使えません。
片運転台である714号・735号の2編成のうち
運転台がある車体同士を組み合わせることで
両運転台に改造しました。
また台車も
土佐電気鉄道の軌間1067mmに合わせて改軌されました。

1990年8月以降、世界の路面電車第1弾として
営業運転を開始した735形(735号機)でしたが、
ノルウェー オスロ市からやってきた198形ボギー車
オーストリア グラーツ市からやってきた320形、
ポルトガル リスボン市からやってきた910形ほどには活躍できず
2005年以降、
運用実績がなく車庫に保管されたままになっていました。
910形のほうが、見るからに古典的車両で、
実際に車齢も高いのです。

なぜでしょう?
おそらくその理由は「GT4形」が
特殊な連接車体を有していたことにありそうです。
普通、連接車は2つの車体を台車によって繋ぐ連接構造となっています。
つまり2車体3台車ですね。対して「GT4形」は2車体2台車です。
ただし単車を2台連結しているのとはワケが違います。
それぞれの車体に設置されているのはボギー台車で、
これをサブフレームによって、
それぞれ連節部分にある蝶番のような物に接続するという
特殊な連接構造を採用しているのです。
また主電動機もサブフレームに設置されており、
特殊なカルダン駆動となっています。
ツリカケ駆動ではありません。
愛称の「レトラム」は「レトロなトラム」からきた造語ですが、
ギミックなそのメカは、
レトロという名には似つかわしくないという気すらします。
またスタイルもレトロらしからぬスマートなデザインです。
画像をご覧下さい。
超低床車というわけではありませんが、
床下スペースは狭いのは明らかです。
メンテナンスも面倒だったに違い有りません。

それを福井鉄道が購入、
2014年4月から運行を開始したというわけです。
福井県も援助金を出して導入を後押ししたのですが、
大変だったのは、
この735形をF10形として再生することになった
京王重機整備のスタッフでしょう。

京王重機整備は、京王電鉄の車両を定期的に保守点検するほか、
更新・改造などを行うのが本業ですが、
マニアには、京王電鉄などで廃車となった車両を、
全国の地方鉄道に移籍させる際、
先方に合わせて車両改造を行うことで有名です。

そういえば前述の 銚子電鉄 デハ2000形は、
もと伊予鉄道800系ですが、
そのもとはというと京王帝都電鉄2010系で
京王重機での移籍改造第1号となる車両です。

一時期、東急電鉄の中古車が、
多くの地方鉄道と軌間が同じであることから、
多く地方へ移籍してゆきましたが、
京王帝都電鉄の初代5000系や3000系も
一畑電鉄や北陸鉄道や上毛電気鉄道などに
移籍してゆくようになりました。
ただ東急と違って、軌間が違います。
ですから、営団地下鉄などで廃車になった車両の
台車を組み合わせて転用改造しています。
よって、簡単に「もと京王3000系だ。」
と言いきってしまうことに私は少なからず抵抗があります。
このように多少手の込んだ転用改造していたのが
京王重機です。
手の込んだ…といえば、
高松琴平電気鉄道の600系もそうです。
なんと種車は名古屋市営地下鉄の250形や300形などで、
京王重機では、
集電装置までも違うものを転用させているのです。

鉄道車両を改造するということにかけて、
おそらく日本で一番チャレンジ精神に富むのが
京王重機整備といえるでしょう。

営業サイドからすると、
たった1両の路面電車を、それも外国製の異端車を
わざわざ手直しすることは
手間がかかる割には儲けにならないミッションでしょう。

しかし今回、ここでは役に立たなくても、
様々なノウハウが得られたに違いありません。

735号機にF10形とは…なぜ?。
と首をかしげたくもなるのですが、
京王重機のスタッフにしてみれば、
新形式を付与するに足る「いい仕事」をされたのではないでしょうか。


−鉄道車両写真集−
福井鉄道 F1000形 フクラム F10形 レトラム
土佐電気軌道 500形/外国電車etc
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参考文献;鉄道ピクトリアル:

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