鉄道車両も自動車同様、定期的な点検が行われます。 でも大江戸線内では車検に相当するような 点検、修理を行う工場は設置されていません。 大江戸線の車庫がある木場車両検修場でも点検は行ってきましたが、 大がかりな点検、修理設備は既存のものを利用したほうが、 効率的ですし安上がりということで、 大江戸線車両は、 浅草線の馬込車両基地で点検を行うことにしたのです。 こうした例は大阪メトロや近鉄にもあります。 大江戸線と浅草線は線路の幅が同じ。 かつ車両サイズの小さい大江戸線車両ですから 浅草線に乗り入れ可能です。 そこで大江戸線では 車両(12-000形・12-600形)を馬込に持ち込むため、 大江戸線の汐留駅と浅草線の新橋駅付近を結ぶ線路 「汐留連絡線」を2006年に新設しました。 ただ、大江戸線の電車は浅草線を自走できません。 大江戸線はリニアモーター式という、 線路上の電磁石と台車側の電磁石の作用で走る 特殊な駆動方式を使用しているからです。 それなら浅草線の軌道に電磁石(リアクションプレート)を設置する 手もありそうなものですが、 システムの違いはそんな単純なものではありません。 そもそも大江戸線用のパンタで浅草線の架線に届きっこありません。 そこで、機関車でこれを牽引させることにしたのです。 E5000形は2005年に4両製造されました。 とはいっても、運転台は片側にしかなく 2両を背中合わせに連結して運用するので、 実際上は2両と考えて良いでしょう。 車体断面は浅草線より小さい大江戸線の車両限界に合わせており、 コンパクトです。 当然のことながら、保安装置には都営地下鉄浅草線 (=京成電鉄・新京成電鉄・北総鉄道・京浜急行電鉄)で使用されている 更新型C-ATSと大江戸線で使用されている ATC を搭載しています。 列車無線も浅草線用の誘導無線 (IR) と 大江戸線用の空間波無線 (SR) を搭載します。 事業用車でありながら 急行灯が設置されているのも興味をそそられるところですね。 ただし、リニアモーターは備えておらず、 大江戸線内でもリアクションプレートは使用せずに、 通常の車輪による動力走行となります。 集電装置はシングルアーム式パンタグラフですが、 浅草線と大江戸線では架線の高さが違うことから、 浅草線用にPT-7202-A形を5001、03(Mc1) に2台、 大江戸線用にPT-7202-B形を5002、04(Mc2)に1台と別々に搭載します。 連結器は通常、高さ 550 mm の大江戸線に合わせていますが、 高さ 880 mm とし連結アダプタを使用することで 浅草線用の車両と連結し、 車両基地内でこれを移動させることも可能にしました。 この連結器は自動開放シリンダー付密着連結器で、 連結作業をカメラで監視、 作業の効率化を図っています。 なお制御装置はシーメンス社製(T-INV5形)IGBT-VVVFインバータ制御で 190kWの主電動機を4台制御する1C4M×1群制御となっています。 大江戸線車両のみならず、浅草線車両も牽引できるスペックです。 ブレーキは、E5000形から 連結車両のブレーキ(常用・非常・保安)を総括制御します。 常用ブレーキは各車のVVVFインバータ制御装置と信号を送受信しながら、 回生ブレーキまで動作させるものです。 もちろん不足があれば空制ブレーキでこれを補う電空協調制御です。 各車輪には空転を防ぐための増粘着装置(アルミナの粉末を散布) も装備しています。 小さなボディにどこでも走行できるメカが満載です。 汐留連絡線は大江戸線汐留駅から 浅草線大門駅 - 新橋駅間に至る単線トンネルです。 その長さは 483 m 。 これ、短いと思われますか。 大阪メトロにも連絡線はありますが、ここまで長くはありません。 地図上から眺めてみても、 東海道新幹線、東海道本線(東海道線・山手線・京浜東北線)、 環状2号線道路、そして地下路線であるJR横須賀線が…、 加えて東京の地下には、 一般市民には想像もできないライフラインが 縦横無尽に張り巡らされています。 これらを横断する汐留連絡線は、 途中半径 80 m の曲線や約 48 ‰ の急勾配がある ひと癖もふた癖もある難所となっているのです。 E5000形が2両1組となっているのは、 この急曲線をスムーズにやり過ごすためです。 増粘着装置を搭載するのもこの急勾配ゆえのことと思われます。 「大江戸線車両を浅草線の馬込車両基地で点検を行う。」 −−−言うは易く行うは難し。−−− E5000形の赤いボディは、これを現実にした関係スタッフの熱い思い。 と私は勝手にそう解釈しています。 参考文献:鉄道車両年鑑2006年版 鉄道ピクトリアル #781 2006.10 |
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