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J鉄局の珍車ギャラリー

上野モノレール 40形

ギャラリー

「運行休止の発表、その翌日」
  上野モノレール 40形

上野モノレール(上野懸垂線)は、
上野動物園東園駅〜上野動物園西園駅間(0.3km)
で運行されていました。
いうまでもなく日本最短のモノレールです。
ちなみに所要時間は1分半、料金は150円。
動物園内を走る遊具のようなもの
といってしまえばそれまでですが、
途中、一般道を跨いで走行するので、
鉄道扱いとなっていました。

そんなわけで、1957年の開業以来、
上野モノレールの2両編成1本(2両)は、
東京都交通局に在籍し続けてきました。
ところが、
2019年11月末をもって
上野懸垂線は当面の間休止となってしまいました。

交通局のHPによると
−−現行の車両は、
昨年11月から12月にかけて定期検査を実施し、
車両設備等の安全性を確認しておりますが、
平成13年度の運行開始から17年が経過し、
経年劣化が顕著に進んでいることから
次回の定期検査前をもって
運行休止することといたしました。−−
とあります。

老朽化のためということですねえ、
でも『40形』は4代目。2001年製の新車です。
IGBT素子によるVVVFインバータ制御車であり、
車体はアルミ合金製です。

確かに、
モノ レールは1本の軌道桁上で走行するため、
安定性に難があります。
よって台車には走行車輪の他に
案内車輪や安定車輪が必要です。
またゴムタイヤを使用するので
抵抗は鉄車輪よりも大きくなります。
そのため動力費がかさみますし、
鉄車輪よりも磨耗が早いので交換間隔が短く、
稼働率が下がり、維持費もUPします。
とはいえ、
上野モノレールは他のモノレールと較べて、
まずスピードが段違いに遅い。加えて、
動物園の開園時間にしか走行しないのですから、
走行距離も圧倒的に短いのです。
一日に2000km以上、それも270km/hという
速度でこき使われている新幹線と
同程度の寿命というのは私には納得できないのです。

そういえば、2008年12月に廃止された
名鉄の犬山モノレールで活躍していた、
MRM100形は1962年3月の開業以来、
代替わりすることもなく、
46年にわたって活躍しました。
もっともこれは、跨座式です。
では懸垂式ではどうなのかというと、
1988年に開業の千葉モノレール。
これまた、開業時の年に導入された1000系が、
まだ現役で活躍中です。
2001年製の新車「40形」が傷んでいるとは
考えにくいですね。

施設の老朽化というのも考えてみましょう。
モノレールの分岐器(ポイント)は、
重い軌道桁を移動させるしかありません。
構造も複雑でまず傷むのはこれです。
これを維持するのは結構大変でしょう。
しかし、上野モノレールは、
1列車が行ったり来たりするだけですから、
分岐器なんて存在しません。
上野モノレールでは
66年11月から2ヶ月 営業を休止し軌道整備を、
99年12月から1年半かけて
支柱の耐震工事を含めた設備更新をやってる
とのことですから、
十分なメンテナンスがなされてきた
と言っていいでしょう。
ちなみに東京モノレールは1964年開業です。

うーむ2001年生まれの彼女『40形』が、
20年ももたずに引退の憂き目をみることになるのは、
老朽化以外にも
何か理由があるに違いありません。

まず、
利用者が少なく赤字経営だったからという理由。
これは上野モノレールに限ってあり得ないことです。
休日には行列ができるほどの人気者です。
2016年にはなんと
102万人の利用があったということです。
これは来園者の1/4にあたるということで、
営業成績は決して悪くなかったのです。

逆に需要増に追いつかなかった
ということも考えられます。
動物園のHPでは
東園と西園を往復する車両を無料運行する。
(電気自動車など)
とあります。しかし、路線長は300mです。
代替の輸送手段がなくても
なんとかなるほどのものなのです。

理由がみえてきました。
−−なくても困らない−−
まして巨額の資金を拠出するに及ばない。
というのが、正直なところではないでしょうか。

では、なぜ上野モノレールは造られたのか。
上野モノレール誕生の経緯にまで遡ってみましょう。

東京都は1950年代、路面電車に代わる交通機関として
モノレールを考えていました。
参考にしたのは
1901年開業のヴッパータール(独)のモノレール。
世界最古であるヴッパータールのモノレールは、
ぶら下がって走る「懸垂式」。
鉄のレールの上に台車を置き、ここから伸びる
1本のアームが車体を支える構造です。
東京都は、このヴッパータールのモノレールと
ほぼ同じ構造としつつ、
車輪を鉄からゴムタイヤに変え、
急勾配でも走れるように考えました。
歩いてみないとなかなか実感できないんですが、
東京ってところは、
結構起伏があるのです。
渋谷の駅周辺は文字通り谷底。
当時の交通局はちゃんと考えています。

東京オリジナルの新方式をテストするため、
上野動物園の敷地に
実証実験のための路線が建設されました。
上野モノレールは、
動物園の来園者を運びながら
実験を重ねることになります。
しかし、
東京の交通需要は高度経済成長によって急激に増加。
とてもモノレールでは
追いつかないということがわかり、
輸送力の大きい地下鉄が
整備されることになったのです。
つまり、この時点で上野モノレールは、
ある意味、使命を終えたともいえます。

しかし上野動物園モノレールには
来園者輸送という役割がありました。
それだけではありません。
お猿さんが片手でブラ下がっているかのような、
スタイルは日本中の子どもたちの人気者でした。
幼かった私が
「のりものずかん」という絵本のなかで見た
思い出のモノレールは上野モノレールです。
子どもたちの夢とあこがれを載せて、
引き続き運行することになったのです。
それから、2019年の休止に至るまで、
車両は3回取り替えられますが、
あの愛嬌あるスタイルは引き継がれています。
上野モノレールは
日本の鉄道史上における、
貴重な産業技術遺産でもあるのです。

H形 57〜66年 9年間
上野懸垂線の開業に伴い導入。

M形 67〜84年 19年間
66年11月に営業を休止し
軌道整備をした後、67年1月より運行を開始。
84年8月で運行を終了、廃車。
車体はアルミニウム合金製

30形 85〜99年 14年間
85年4月より運行を開始。
制御装置に電機子チョッパ方式を採用。
上野懸垂線の設備更新工事に伴い、
1999年12月に運行を終了、廃車。
(99年12月から支柱の耐震工事を含めた設備更新)

40形 2001〜19年 19年間
2001年5月より運行を開始。
制御装置に
IGBT素子によるVVVFインバータ方式を採用。
駆動装置に
歯付きベルト組み込み平行多段駆動を採用
台車は特殊なボギー台車を装着。

こうして見ると、
30形では電機子チョッパ、
40形ではVVVFインバーターと
当時最新のメカを取り入れているのですね。
すごいなあ。
でも電機子チョッパやVVVFインバーターって
上野モノレールに要ります?
まあ、VVVF化すれば、
ブラシレスの電動機を使えるので、
メンテナンスはラクになります。
でも電機子チョッパ制御は
高価なパワートランジスタを使うので、
省エネ効果との兼ね合いで
何とか採算がとれるかという代物です。
上野モノレールで
何をどれだけ省エネするのでしょう。
また歯付きベルト組み込み平行多段駆動を
採用したっていうのですが、
そのメリットは何なんですか?
特殊なボギー台車を装着せずとも
在来の方式でなにがいけないのでしょう。
費用対効果が見えてきません。

開業の時こそ
路面電車の後継車として未来を託せるか否か、
いろんなメニューを試してみる価値はあった
と思います。
しかし東京の新たな交通機関として
モノレールは採用されなかったのです。
もはや、あれこれ試すより、
この既存の施設を有効に活かしながら
これを維持することに心を砕くべきです。
価格面でも性能面でも
この上野の地で維持していくための
必要十分なデータは
60年に亘たる経験から導き出せるはずです。
オンリーワンだからこその
過去の貴重なデータがあるではないですか。

参照Webによると
「登場から18年が経過した40形は、
車両の更新時期を迎え、
その費用は18億円かかることが判明。」
「18億円という金額は
日本車輌製造(日本車両)が出した
見積もり額(税込み)です。」とあります。
また
「交通局のモノレール担当者によると、
見積もりが4倍以上になった理由は不明とのこと。」
ともありました。
日車は東京都とともに
上野動物園モノレールの開発にかかわり、
開業時のH形電車から
現在の40形まで製造してきました。
そんな日車が
30形を導入したときの4倍以上となる金額を
提示するとはどういうことなのでしょう。
どんぶり勘定ですが、
18億円ありゃあ。
10両編成の電車が楽勝で買えちゃいますよ。
18億円という金額をふっかける日車も日車なら、
何故そんな金額になるのか。
その理由を不明と言ってのける
担当者も担当者ですね。
廃止も視野に入れた検討が行われることになった
とありますが、
廃止しか視野になかったんじゃあないでしょうか。

休止発表の なんと その翌日(2019年1月24日)、
上野モノレールは車両の故障により運休します。
走行装置内の部品が損傷したそうです。
私には
「ハナから再起させる気がない交通局の思惑」を
40形が感じ取ったのだと思えてならないのです。


参照Web: 上野動物園モノレール、
黒字なのになぜ存続危機なのか?
「日本最古」ゆえの事情   
2019.02.05 草町義和(鉄道ライター)

−鉄道車両写真集−
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